人影のない冷い椅子は

だいたいわーってなって超読みにくい文を書いてます

夜職を始めてみての話

2月頃からバイトを始めた。

場末のスナック。理由はかんたん、生活にはお金がかかるから。夜を選んだのは、昼職をするにはわたしは夜型すぎるし、最低賃金で何時間も働く体力もないから。今のスナックを選んだのは、単純にこの店が家からいちばん近くて時給も高かったから。(関係ないけど「場末」ってほぼ「スナック」の枕詞だよね)

 

比較的良い条件のところに雇ってもらえたと思う。

ママが雇う側として常識人であるという面。女の子をきちんとお客さんから守ってくれること、女の子への説明や教育がきちんとしていること、働いていて主にこのふたつに敬意を抱いた。

また、お客さんがほとんどママの知り合いであること。変な人は来ないし、来てもすぐ帰っていくことが多い。連絡先を交換するのもママを通してなので比較的「安全」なお客さんだ。

それに、ボーイさんがいる。いつもシフトに入っているわけではないけれど、働く女の子のサポートをしてくれる。

 

……と書き連ねて。まあ、良い店だなと思う。「この業界においては」。

 

なんという大変さなんだろうか。舐めていたわけじゃないけれど覚悟が足りなかった。正直そう思っている。

ママは怖すぎる。不満もなくはないけどまあ第一に怖い。何が怖いって中途半端に私情を話さなければいけないことが怖い。ビジネスライクな関係でいられない。ママはこちらにガンガン個人情報を聞いてくるけれど、こちらからどこまで聞いてもいいのかもわからないし聞けもしない。中途半端に上司なので。

お客さんは厄介である。これも中途半端にママしか知らない情報が多いから、誰が何を聞かれたくないのかなどがわからなくて話題を振るのに困る。あとで、あれは言ってはいけなかったよと怒られることもある。会話のキャッチボールが失敗したときの気まずさをなんとかしてほしい。なんとか話させて盛り上げていくわたしたちの仕事にまったく協力的でないお客さんも多々いる。ママに伝えないといけないのに名前すら教えてくれない人だとか。

飲みの席はとてもしんどい。ゲームをしたりするんだけれど、わたしがそういうゲームに慣れていなさすぎるというのと、負けたら飲まなければいけないというプレッシャーに押しつぶされそうになる。テキーラや焼酎ショットはほんっっとうに不味い。

それからもうひとつ。

わたしが夜の仕事をしだしたのはこの店が初めてだ。だから、もしかするともっと良い店があるのかもしれない。けど、いろんなほかの夜職の方の話を聞いていても感じたこと。

わたしたちは「消費」される「商品」として生きなければならないということ。

スナック等の水商売では、働いている女はお客さん(≒男性)の相手をしなければならない。お店にとって当たり前のことだが、お客様は神様であるので、お客様の機嫌を損ねてはいけない。どんな話題もキャッチして上手に投げ返さなければならない。それがたとえ男女のゲスい話であっても。たとえ、自分を題材にした下ネタであっても。うまくこねくり回して変化球を投げ返すことはできても、よけることはそこでは許されない。

この世界でうまくやっていける人たちは、それが器用にできる。

その一連のキャッチボールを、「考えて」やっているうちは、まだわたしは仲間だと思う。女の子目線として共感できる。

わたしが恐怖に似た感情を覚えたのは、キャッチボールを「考えずに」やっている女の子・女の人がいる、ということにである。

頭を働かせずとも、男の人に気に入られる答えを返すことができる。お金が貰えるからではなく、好きでお客さんと会話している。お金ではない部分でお客さんとの同伴を好んでいる。

お客さんとお客さん以上の関係を持つ。そのことを自慢げに他の人に話す。

 

知ったとき、わたしはかなり衝撃を受けた。世間知らずだと思われるかもしれないが、わたしはずっと、夜職の女性はみんなお金を稼ぐために夜の世界で働いていると思っていたからだ。

要するに、男性に消費されることをよしとする考えを持っている女の人がこの世界にはたくさん存在するのだ。

そんなことも知らずに生きてきたのだなと思った。わたしは今までの自分がほんとうにこことは違う世界にいたことを知った。

だって、びっくりしないだろうか。一緒に働いている女の子が、店のママが、「同伴はいいよね!」「店で(お客さんに)認められるって嬉しいよね!」って言うんだぜ。嬉しい、とかいう感情がこの仕事をしている上で出てくるの???というお気持ちである。

失礼取り乱しました。でもそのくらいの衝撃だった。店に来る男の人たちはみんなこういった職業や女という性を下に見ている人ばかりだし、それを喜んで受け入れる女なんていねえよと思っていたから。

この世界に長くいるうちに考えに染まってしまったのかもしれない。もとからそういった環境にいたのかもしれない。その人たちは悪くない。

でも、わたしは、そうなりたくはないと思った。女の子を消費したいだけの男に喜んで消費される女にはなりたくない。お客さんだから、お金をもらえるからいい顔をしているのであって、無償で性を提供するようなことは絶対にしたくない。そのあたりをわかってくれているお客さんもたまに居れども、そういう人さえ「このあたりまではいいだろう」という気持ちが透けて見えたりして嫌になる。

 

でもいちばん嫌なのは、こんな考えを持っていて内心何を思っていてどれだけ気持ち悪い思いをしようとも、それを隠して商売をする必要があるここ、この世界にしか職場がないことである。

需要があるから供給も発生してお金がもらえる。それはわかっている。需要がなくなればわたしたちは職を失う。それもわかっている。

とても悔しいと感じる。夜の仕事が他にもあればいいのに。場末には消費することしかしない客の来るスナックだけがある。